若者は、悩んでいました。
彼には、とても好きな人がいたのです。
隣に住んでいる女の子で、彼のことを、昔から兄のように慕っていました。
少女はやっと十四歳。
幼さが、抜けきっていないのですが、そこがまだかわいらしいのです。
そんな彼女に、「恋人になってほしい」なんて言って、嫌われでもしたら…。
明日は、少女の十五歳の誕生日です。
なにをプレゼントしたらいいだろうかと、思うそばから、明日こそは自分の気持ちを少女に伝えたいと
考えるので、どうしたらいいかわからず、彼は頭を痛めているのでした。

その頃、少女も悩んでいました。
少女も、隣の若者が大好きだったのです。
でも幼なじみの、兄のように優しい若者に「好きです」なんて言って、笑われないでしょうか。
少女は、自分ではもう、大人のつもりでした。
二つ年上の若者に似合うような、すてきな娘になりたいと願っていたのです。

若者はいろいろ考えた末、いいことを思いつきました。
少女に、花を贈ろうと決めたのです。
その花の花言葉に、自分の気持ちを託して、少女に伝えようと思ったのです。
少女が、花言葉に詳しかったから。
少女も、決心しました。
明日の二人きりのバースディパーティーで、若者に、こっそりと気持ちを伝えようと。
花を飾り、その花言葉に、思いを託そうと考えたのです。


誕生日の日。
若者は、チューリップを買って、少女の家を訪れました。
ベルを鳴らすと、かわいい水色のドレスの少女が、迎えました。
少女は、若者の胸に抱えられた花束に、一瞬、とまどいました。
「これ…チューリップよね?」
「僕からのプレゼントだよ。
…その…メッセージというか、僕の気持ちをこめて…」
少女の不思議そうな顔が、みるみるうちに赤く染まりました。

今にも泣き出しそうな少女に、若者はうろたえました。
なにか言おうとする若者の腕をとった少女は、
黙って自分の部屋に案内しました。

部屋のドアを開けたとたん、若者は驚いて立ち止まりました。
テーブルいっぱいに、美しいチューリップが飾ってあったからです。
若者は、真っ赤になってうつむいた少女と、テーブルの上の花を見比べて
不思議そうな顔をしました。
「…これも…チューリップ…?」
「…あのね…私からの、お返事です。私の気持ちをこめて…飾っておいたの」
若者の顔が、みるみる明るくなりました。
「じゃあ…それじゃあ!」
「ええ、ありがとう。ほんとに嬉しいわ…」
にっこり笑おうとした少女のほおを、喜びの涙が、ひとすじ伝いました。